ベンガル語には、歴史的に大きく分けて二つの主要な文体が存在します。それは、格調高い文語体であるShadhu Bhasha (সাধুভাষা)と、現代の標準語となっている口語体のCholito Bhasha (চলিতভাষা)です。
1. 各文体の概要
Shadhu Bhasha (シャドゥバシャ) - 文語体
- 意味: 「上品な/清らかな言葉」
- 特徴: 19世紀から20世紀初頭にかけて、文学作品や公式文書で広く使われた、格調高くフォーマルな書き言葉です。サンスクリットから直接借用した格調高い単語(তৎসম শব্দ, Tatsama shobdo)を多用し、動詞の活用形などが現代語よりも長いのが特徴です。
- 英語表現: "Literary Bengali", "Formal Bengali", "Classical Bengali"
- 現代での位置づけ: 現在の日常では使われません。日本の「古文」のように、古典文学を理解するために学校で学びます。
Cholito Bhasha (チョリトバシャ) - 口語体
- 意味: 「通用する/流行の言葉」
- 特徴: 現代の話し言葉を基盤とした標準語です。Shadhu Bhashaに比べて動詞や代名詞が短縮されており、よりリズミカルで自然な響きを持ちます。語彙も、サンスクリット由来の単語が口語的に変化したもの(তদ্ভব শব্দ, Tadbhava shobdo)や、ペルシャ語、アラビア語、英語からの借用語も使われます。
- 現代での位置づけ: 今日の新聞、雑誌、書籍、テレビ、日常会話など、あらゆる場面で使われる標準的なベンガル語です。
2. 具体的な違いの例
タゴールの小説『বৌ-ঠাকুরাণীর হাট』の冒頭部分を比較してみましょう。
原文 (Shadhu Bhasha)
রাত্রি অনেক হইয়াছে। বাতাস বন্ধ হইয়া গিয়াছে। গাছের পাতাটিও নড়িতেছে না। ... উদয়াদিত্য তাঁহার শয়ন-গৃহের বাতায়নে বসিয়া আছেন।
現代語訳 (Cholito Bhasha)
রাত অনেক হয়েছে। বাতাস বন্ধ হয়ে গেছে। গাছের পাতাটাও নড়ছে না। ... উদয়াদিত্য তাঁর শোবার ঘরের জানলার ধারে বসে আছেন।
変更点のまとめ(ローマ字表記付き)
| 変更の種類 | Shadhu Bhasha (文語体) | Cholito Bhasha (口語体) | 意味 |
|---|---|---|---|
| 動詞の活用 | হইয়াছে (hoiyache) |
হয়েছে (hoyeche) |
〜になった |
| 動詞の活用 | হইয়া গিয়াছে (hoiya giyache) |
হয়ে গেছে (hoye geche) |
〜になってしまった |
| 動詞の活用 | নড়িতেছে (noṛiteche) |
নড়ছে (noṛche) |
動いている |
| 代名詞 | তাঁহার (tãhar) |
তাঁর (tãr) |
彼の/彼女の |
| 語彙 (名詞) | শয়ন-গৃহ (śoyon-griho) |
শোবার ঘর (śobar ghor) |
寝室 |
| 語彙 (名詞) | রাত্রি (ratri) |
রাত (raat) |
夜 |
3. ベンガル語学習と二つの文体
学習の進め方
ベンガル語を学ぶ際は、必ずCholito Bhashaから始めるのが鉄則です。現代のあらゆるコミュニケーションはCholito Bhashaで行われるため、ここから学ぶのが最も効率的で実用的です。Shadhu Bhashaからの入門は、現代では全く現実的ではありません。
Shadhu Bhashaはいつ必要か?
- 古典文学の読解: タゴールなどの古典作品を原文で楽しむには、Shadhu Bhashaの知識が必要です。
- 法律分野: バングラデシュの古い法律の条文はShadhu Bhashaで書かれていることが多く、法学研究や実務で必要になる場合があります。(1987年に裁判所でのベンガル語使用が法律で定められましたが、依然として古い法律の解釈にはShadhu Bhashaの知識が不可欠です)
4. ヒンディー語との関係
Shadhu BhashaとCholito Bhasha、ヒンディー語に近いのはどちら?
結論から言うと、語彙の面ではShadhu Bhashaの方がヒンディー語に近く、総合的に見てもより近いと言えます。
- 語彙 (Vocabulary): これが最も重要なポイントです。Shadhu Bhashaとフォーマルなヒンディー語は、共にサンスクリットから直接借用した単語(Tatsama語)を多用するため、多くの単語が共通しています。一方、Cholito Bhashaはより口語的な単語(Tadbhava語)や借用語を使うため、共通性は低くなります。
| 意味 | Shadhu Bhasha (ベンガル語) | ヒンディー語 | Cholito Bhasha (ベンガル語) |
|---|---|---|---|
| 月 | চন্দ্র (Condro) | चंद्र (Chandra) | চাঁদ (Cãd) |
| 手 | হস্ত (Hosto) | हस्त (Hast) | হাত (Hat) |
| 本 | পুস্তক (Pustok) | पुस्तक (Pustak) | বই (Boi) |
| 夜 | রাত্রি (Ratri) | रात्रि (Ratri) | রাত (Raat) |
- 文法 (Grammar): 文法的には、Shadhu/Cholitoともにヒンディー語とは明確に異なります。特に、ヒンディー語には男性・女性名詞の区別がありますが、ベンガル語にはありません。
ヒンディー語版の「Shadhu Bhasha」
ヒンディー語には、Shadhu Bhashaに相当するフォーマルな文体としてShuddh Hindi (शुद्ध हिन्दी - 純粋ヒンディー) があります。これもサンスクリット語彙を多用しますが、Shadhu Bhashaが文法レベルで現代語と異なるのに対し、Shuddh Hindiは主に語彙の違いであり、文法は現代標準ヒンディー語と同じです。
その他の古いヒンディー語文語体:Braj BhashaとAwadhi
かつてヒンディー語圏で文学の標準語として使われていた言語には、Braj Bhasha (ブラジュ・バーシャー) や Awadhi (アワディー) があります。これらは19世紀頃まで文学の中心でしたが、現代ヒンディー語とは文法も語彙も異なる独立した方言(または言語)です。
文法的に現代語と異なる「古い文語」という点では、これらはShadhu Bhashaと似た側面を持っています。しかし、Shadhu Bhashaが現代ベンガル語の直接の祖先であるのに対し、Braj BhashaやAwadhiは現代標準ヒンディー語(デリー周辺のKhari Boli方言が基盤)の「傍流」にあたるという違いがあります。